組立ロボットの種類と工場導入時における選定ポイントを解説

組立ロボットとは、工場などの生産現場において、製品や部品の組み立て作業を自動化するために使用される産業用ロボットのことです。2023年の世界の産業用ロボット市場において、組立作業用途は全体の約25%を占め、自動車産業や電子機器産業を中心に年間約10万台が導入されています。本記事では、組立ロボットの種類と選定のポイントを解説します。

組立ロボットの種類

協働ロボット

2008年に初めて実用化された協働ロボットは、従来型の産業用ロボットとは異なり、人との直接的な共同作業を前提に設計されています。従来型ロボットが安全柵内での高速・高出力作業を特徴としていたのに対し、協働ロボットは安全機構や出力制限を備え、より柔軟な作業環境を実現します。

協働ロボットの特徴

  • 安全性への配慮: 接触時の衝撃を検知し0.1秒以内に停止する機能や、人体に優しい丸みを帯びた外装設計を採用。最大動作速度は通常1.0m/s以下に制限されています。
  • 柔軟な再配置: 平均的な機種で重量が約30kg程度と軽量で、設置面積も1平方メートル以下。電源を入れ替えるだけで稼働可能なプラグアンドプレイ方式を採用しています。
  • 簡易プログラミング: ダイレクトティーチング機能により、未経験者でも約2時間程度の研修で基本的なプログラミングが可能です。

主な用途

  • 人とロボットが作業を分担する工程: 製品を並べたり、ある程度の仮組みを行った後、ロボットが最終的なネジ締めや検査を行うなど。
  • 多品種少量生産への対応: 同じライン上で異なる製品を組み立てる場合、ロボットを素早く切り替えたい場面に向いています。

ビジョンシステム搭載ロボット

カメラや赤外線センサーなどの画像処理システムを搭載したロボットです。従来は部品の位置や向きを厳密に治具で固定しなければならなかったため、ライン設計や部品投入位置が少しでもずれるとエラーが発生することがありました。ビジョンシステム搭載ロボットでは、リアルタイムで部品やワークの位置・形状を検知し、自動で軌道補正を行うことができます。

ビジョンシステム搭載ロボットの特徴

  • 自動位置合わせ: カメラで部品を認識し、ロボットが自動的にハンドの位置を調整してピックアップ・組み付けを行う。
  • 柔軟な対応: バラ積み部品の認識において、重なりや影の影響を受けにくい最新のAIアルゴリズムにより、従来よりも高い処理速度向上を実現しています。
  • 検査機能の付加: 組み立てながら不良や欠品を検知するなど、一部の検査工程を兼任できる。

主な用途

  • ピック&プレース作業: バラ積みの小型部品をロボットが一つひとつ拾い上げて、定位置にセットするなど。
  • 自動検査を伴う組み立て: 電子基板の組立時に部品の有無を画像でチェックし、不良を早期に検出する工程など。

高精度・微細組立ロボット

半導体や光学機器など、ミクロンオーダーの精度を必要とする業界向けのロボットです。非常に繊細なハンドリングが求められ、位置決め精度や振動・反動の制御が重視されます。通常の産業用ロボットとは異なり、クリーンルーム対応や振動を極力抑える機構を備えている場合も多いです。

高精度・微細組立ロボットの特徴

  • 極めて高い位置決め精度: 非常に高い精度の制御が可能なロボットも存在します。
  • 振動・温度管理: ロボット本体や周辺環境の微細な振動が精度低下に直結するため、剛性を高めたり、温度変化を最小限にする設計がなされます。
  • クリーンルーム対応: 塵や埃が一切許容されない工程でも使用可能なよう、樹脂パーツの低発塵化や防塵設計が行われることもあります。

主な用途

  • 半導体製造プロセス: ウェハハンドリング、チップ実装、ボンディングなど。
  • 光学デバイスの組立: レンズやプリズムなど、非常に精密な位置合わせが必要な機器の製造。

重量物対応ロボット

自動車や航空機といった大型製品の組立には、重量物を扱う能力が求められます。大きな駆動モータや堅牢な構造を持ち、数百kg~1トン以上の可搬能力を誇るロボットも存在します。単純な搬送だけでなく、より精度の高い組み付け作業を行うために多軸制御が可能なモデルが増えています。

重量物対応ロボットの特徴

  • 高トルク・剛性の確保: ロボット本体のアームやベースの強度が重要になります。
  • 振動・慣性制御: AIによる動的負荷予測と適応制御により、急停止時の残留振動を0.5秒以内に収束させます。
  • 大きな設置スペース: ロボット本体や周辺装置も大型化するため、レイアウト設計が複雑になりやすいです。

主な用途

  • 車体パネルやフレームの組み付け: 自動車ボディの溶接ラインや、航空機の外板や骨格の組立など。
  • 大型機器のアセンブリ: 建機や産業機械のユニットごとの組み立て工程など。

デュアルアーム(双腕)ロボット

まるで人間が両手を使って作業するように、左右にアームを持つロボットです。人が行う複雑な工程、たとえば片手でワークを押さえながらもう片方の手でネジを締めるといった動作を単体で実現できるメリットがあります。

デュアルアーム(双腕)ロボットの特徴

  • 同時多工程処理: 左右のアームで別々のツールを使用したり、部品を保持しながら別の部品を組み合わせたりできる。
  • 複雑な作業の自動化: 通常のシングルアームでは難しい“持ち替え”や仮固定などをスムーズに行える。
  • 人間作業の代替: 従来、人の器用さに頼ってきた工程を自動化する可能性が広がる。

主な用途

  • 複雑な部品の組立: 小型の電子部品を押さえ込みながら組み付ける、あるいはケーブルを挟み込みながら部品を取り付けるなど。
  • 多工程をひとつのロボットが担うライン設計: スペース削減やライン工程数の削減につながる。

選定時のポイント

用途・機能別にロボットを分類するだけではなく、実際に自社の生産ラインに導入する場合には、以下の点を定量的に検討する必要があります。

組み立ての内容・精度要件

  • 扱う部品の大きさ・重量・材質:部品が重ければ重量物対応ロボットを、精密部品なら高精度タイプを検討するなど、まずは取り扱うワークの属性を明確にします。
  • 要求される位置決め精度:ミクロン精度が必要なのか、ある程度の公差範囲が許容されるのかによって、選ぶべきロボットの性能や価格が大きく変わります。

生産速度・タクトタイム

  • 量産速度の要件:1時間あたり何個製造するか、1サイクルあたり何秒かといった生産目標を明確化しましょう。
  • 高速動作と精度のトレードオフ:速度を上げると振動や精度低下が起こりやすくなるため、最適なバランスを見極める必要があります。

設置スペース・レイアウト

  • ロボットの動作範囲と安全柵:大型ロボットを導入する場合、設置面積や作業半径、安全柵の有無などを考慮しなければなりません。
  • 周辺機器・補助装置との位置関係:部品供給装置やコンベヤーなどのレイアウトをどのように組み合わせるかによって、作業効率が変わります。

安全性・協働の必要性

  • 安全柵の設置か、協働か:高速作業に重点を置くなら従来の産業用ロボット+安全柵を選ぶことが多いですが、スペースに制約がある、あるいは人との直接的な協力作業が欲しい場合には協働ロボットが有力となります。
  • 安全規格への対応:ISOや各国の安全規格(ISO 10218やISO/TS 15066など)への準拠が求められるケースも多いため、導入前に要件を確認することが重要です。

費用対効果

  • 導入コスト:ロボット本体の価格だけでなく、周辺設備(安全柵、部品供給装置、制御システムなど)、設置工事費も含めたトータルコストを算出する必要があります。
  • メンテナンス・運用コスト:消耗部品や定期メンテナンス、人員トレーニング、予備部品在庫などの費用も事前に見込んでおきます。
  • 投資回収期間(ROI)の試算:現状の人員コストや生産効率、将来の生産量予測などを加味して、どの程度の期間でコストを回収できるかをシミュレーションすると、導入の意思決定がしやすくなります。

組立ロボットはその構造や用途によって多種多様な製品が存在し、世界市場は年率15%で成長を続けています。特に協働ロボットの市場は2023年に前年比40%増を記録し、中小規模の工場や多品種少量生産ラインでも導入が加速しています。

しかし、ロボットの性能を最大限に活かすためには、適切な生産設計とプログラミングスキルが必要です。平均的な習熟期間は数ヶ月で、この間の生産性は人手作業の8割程度となることを考慮する必要があります。

導入を成功させるためには、精度要件や生産速度、レイアウト、安全性、費用対効果など多角的な視点での検討が不可欠です。適切な計画と運用により、品質向上、生産性向上、労働災害リスクの低減といった具体的な効果が期待できます。